ひきこもり魔術師と社交界の薔薇 それで口説いてないなんて! / 秋杜フユ

本の感想, 作者名 あ行秋杜フユ

社交界の薔薇と讃えられる公爵令嬢ベアトリスだが、彼女にだけ聞こえる「精霊」の声のアドバイスから縁談をことごとくふいにしてきた。そんなある日、街に出たときにさらわれそうになるものの、精霊にベアトリスを助けるように言われたとい魔術師の一族・ルビーニ家のエイブラハムに助けられる。ベアトリスの美貌にも全く反応せず魔術の研究に没頭するエイブラハムに興味をもったベアトリスは精霊のアドバイスに従い美味しいものを持ってエイブラハムの館を訪問するが……

一作目のヒロインちゃんの両親のお話。わりにストレートにラブコメでした。

どこから読んでも(たぶん)大丈夫な「ひきこもり」シリーズ、今度は一作目(とか、ちょっと前のとか)の両親の馴れ初めのお話でした。
このシリーズ、大概どこかに突き抜けておかしな人がいるんですが、今回の一番おかしな人は、エイブラハムかなぁ。いい雰囲気になってるのに、研究の時間だからってさっさと退散してうなだれるベアトリスがおもしろ……ご愁傷様でした。いやでも研究バカで大多数がひれ伏すような美人をみても、同じ「人間」として扱っているところはよく考えればかっこいいんですが、色んな所での研究第一の姿勢がいちいち面白い。

このシリーズ、基本的に「悪い人」はいなくて(遠くにいる諸悪の根源は悪そうではあるものの)、事件の黒幕は誰だろうと思ってたらそこからきた!と毎回わりに驚いています。そして、色んな事情で「悪役」になってしまう今回の人も、事情が事情だからなぁと「悪役成敗でスッキリ」というものではないのですが、しんみりとする顛末でした。

ベアトリスとエイブラハムのラブコメがきれいに丸く収まって、最後の最後の後日談までよむといろいろとこみ上げてくるものがあって、そしてこのあとあの騒動か、とまた既刊を読みたくなるお話でした。

ひきこもり魔術師と社交界の薔薇 それで口説いてないなんて!
秋杜フユ/サカノ景子
集英社コバルト文庫(2016.10)
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